USA会計業界視察

1.はじめに

私たち税理士の業界にも、規制緩和の波が押し寄せています。 変動の激しい時代にあって、5年もしくは10年後、 日本の税理士がどうなっているかを予測するのは、非常に難しい状況です。 税理士が持つ社会性ゆえに与えられてきた、 業務独占という保護は取り払われていくかもしれません。 それどころか、税理士という資格制度自体が、 存在していないかもしれません。 規制緩和により、いわゆるグローバルスタンダードと呼ばれているもの (私個人としては、実は、グローバルスタンダードなどというものは存在せず、 アメリカンスタンダード、さらにいうならば、 米国の投資家保護のためのスタンダードなのだと感じますが)が、 日本の会計・税務の領域に持ち込まれ、 米国資本が日本上陸を実行するとき、 私たちの業界にどのようなことが起こるのでしょうか。

日頃から規制緩和後の動向に関心を持っておりましたが、 今回、米国会計人業界の視察旅行に参加させていただき、 現地の空気を肌で感じてみて、 これまでの私の予測を大きく変更させられる部分と、 これまで何となく感じてきたことで、 それが、確信に変わった部分とがありました。

全くの私見であり、予測の域を脱するものではありませんが、 私なりに感じたことを述べさせていただきたいと思います。

2.結論

まず、結論から申し上げます。

結論1

Big5の顧客は、一般投資家の存在する公開企業です。 私たち日本の税理士とは顧客層が完全に違うため恐れる必要はない。

結論2

私たち税理士が恐れるべきは、 3年前から米国内で会計事務所を次々と買収している アメリカン・エキスプレス社 及び 米国内で電子申告の取り扱い実績No.1の民間企業 H&RBlock社であること。

結論3

規制緩和に対する私たちの対応策は、 自計化・書面添付・継続MASの いわゆるKFSと、 その前提となる初期指導・翌月巡回監査の完全実施であること。

結論4

欧米の利益優先の徹底的な合理主義には限界がある。 東洋精神の精髄である『相即の論理』が 見直される時代が必ずやってくる。 私たちの進むべき道は、 TKCの根本哲理である 『自利とは利他をいふ』の実践しかない。

3.結論1について

①Big5の関心事は

今回の視察旅行に参加させていただいて、 私のこれまでの考えを大きく変更させられた点が、 Big5に対する認識でした。 確かにBig5は凄い。 その規模・収益・人員どれをとってもけた外れでした。 そのよるべき行動基準も、会計処理の基準も非常に精密です。 ただ、私は大きな勘違いをしていたようです。 米国ではこれらのことが、 すべての中小零細企業や個人企業にまで 適応されていると信じ込んでいたことです。 Big5イコールアメリカの会計と考えていました。 実際は、Big5に代表されるこの凄さは、 アメリカの会計のほんの一部分だったのです。 もう少し正確に言うならば、 アメリカの上場企業等に適用される非常に特別な分野でしかなかったのです。

Big5は、上場企業及びそれに準ずる会社を顧客として、 投資家向けに現状の企業の状況を 決められた基準に則って正確に伝えることをビジネスとしています。 年間50万ドル(約5,000万円超)以下の仕事には興味がなく、 社会貢献は、市民に対する一種のパフォーマンスとして、 批判を受けない程度に行う。 企業を育て上げてゆくという感覚はなく、 独立性の堅持ゆえか、 あくまでも第三者的に企業を・価する。 このことにより、世界の経済を支配しているのだという自負を持っている。 Big5とは、そんな集団なのだと感じました。

②アメリカの税務・会計に対する感覚

アメリカ人やアメリカの社会は、 税務や会計に対してどのような感覚を持っているのかという点についても、 今回新たに発見をしました。

・アメリカの税務は、会計とは切り離されて存在しています。 日本のように確定決算主義をとっていないからです。 日本においては、税務の前提として、 すべての中小零細企業に財務会計が必要となりますが、 アメリカにおいては、 私たちが情報として漏れ聞く厳密な財務会計を必要とする企業は、 ほんの一握りの企業のみのようです。 財務諸表とは、 投資家の判断を誤らさないために必要とされるものであり、 第三者の投資家の存在しない、 中小零細企業及び個人企業には財務諸表は不要なのだ というのがアメリカの感覚のようです。

・企業は、利益を確保するために 管理会計を必要としている 棚卸しを精密に実施することなど、 それぞれの企業にとって重要となる計数の管理は徹底的に行う。 このことは、財務諸表作成のためではなく自社の経営管理のために行っている。

・アメリカ人の納税意識は非常に高いと思っていましたが、 これもとんでもない勘違いだったようです。 確かに納税感覚の高い人々の集団はありますが、 国民の納税意識は、その人もしくはその会社の、 社会的な地位に大きく左右されているようです。 一部の社会的地位の高い人々は、 周りから・価されるとともに、 それ相当の社会性や倫理性を要求されます。 しかし、多くの一般市民が、 日本人の平均レベルの納税意識を持っているようには思われません。 さらに、納税自体全く関係ないといった階層の人々も アメリカには多く存在しているようです。

③グローバルスタンダードは存在しない

今日本では、グローバルスタンダードという言葉に振り回されています。 グローバルスタンダードなどというものは、存在しません。 私たちがグローバルスタンダードといって恐れているものは、 実はアメリカンスタンダードであり、 さらにいうならば、 アメリカの上場企業に適応されるスタンダードです。 グローバルスタンダードは、 地球上のすべての人々のために存在するのではなく、 米国の証券市場に上場している企業に投資する ほんの一握りの資産家のために存在しているのです。 グローバルスタンダードは、 少なくとのも上場企業のための基準であり、 米国においては、これを、 第三者の一般投資家の存在しない中小零細企業に 適用させようとは考えていません。 確定決算主義をとらないからそれですむのです。 しかし、日本の税理士の場合は状況が違います。 どんなに中小零細であっても企業である以上、 まず財務会計がすべての前提になります。 そして、財務会計を必要とする以上、 そこでは会計原則の存在を全く無視することはできないのです。

④結論

以上、アメリカの会計業界に対して少し批判的にみてきましたが、 全体を通して、 BIG5は直接日本には上陸しないとの印象を受けました。 わざわざ自らリスクを犯して日本上陸をしないでも、 日本の監査法人との連携を深めてゆくことで、 Big5の目的である日本の上場企業を 支配下におくことは十分達成されそうです。

4.結論2について

①B社A社の関心

B社 全米No1の電子申告取次業者であるB社の収益は、 申告時期に集中しています。 B社では、年間を通じて収益があげられる体制づくりを目指して、 会計事務所の吸収合併を進め 監査業務とコンサル業務のノウハウを蓄積し、 さらに海外進出を目論んでいます。 A社 A社は、3年前から積極的に会計事務所を吸収合併しています。 法律に違反しているとの考え方もあるようですが、 裁判所のおおかたの判断は、 A社の行動を支持しているようです。 A社の目的は、 資金管理全般に対してワンストップサービスを提供する事により、 世界中の個人の資産家を手中に入れようとしているようです。

②A社B社の日本上陸について、それぞれの優位性と課題

B社の優位性と課題

優位性

  • 申告税務業務に精通している
  • 電子申告のノウハウあり
  • 莫大な資金力
  • 会計事務所買収のノウハウを持っている

課題

  • 日本とのパイプがほとんど無い
  • 理念がない
  • 日本の税制、確定決算主義がハードルになる。

A社の優位性と課題

優位性

  • 日本の個人顧客多数
  • 莫大な資金力
  • 会計事務所買収のノウハウを持っている

課題

  • 理念がない
  • 日本の税制、確定決算主義がハードルになる。ただし資産税には決算不要

③米国企業の日本進出を阻んできたもの

税理士は自然人のみに与えられた資格であり かつ無償独占業務であるという日本の制度が、 米国資本の日本参入に大きな障壁となってきたように思われます。 この制度のもとでは、 会計及び監査の分野では進出できても、 税務ができないため相乗効果が無いからです。 しかも、日本では確定決算主義をとっているために、 会計と税務を切り離して考えることができないことが、 さらに、日本進出を難しくしてきたようです。 そして、見落としがちな点として、 なによりも言葉、 英語でシビアな交渉ができる日本会計人が少ないこと、 つまり、国際性を有した日本の税務会計の専門家の存在が 非常に少なかったことが、 かえって外国資本の日本参入を阻んできたと感じました。

④A社B社の日本上陸の手法

B社及びA社が、日本に上陸するときの形態を私なりに予測してみたいと思います。

B社の弱点は、 なによりも日本の会計人とのパイプがほとんどないことです。 ・って、たとえば、パソコン会計ソフト会社と手を組む、 あるいは、資金力にものをいわせて ソフト会社を買収することが予測されます。 日本に太いパイプを持ったとき B社は驚異となります。 個人申告及び中小零細企業の電子申告を牛耳ってしまう可能性を秘めています。

A社は、資産税に強い税理士を一本釣りして、 カード利用の個人顧客に対して資産税特化で日本上陸し、 その後日本国内に根を下ろし、 会計事務所を買収していくことが予想されます。 外資系の生保会社がどのようにして日本上陸し、 日本の市場にそれなりの地位を築いてきたか、 ということを見ると参考になるのではないでしょうか。

⑤結論

私たち税理士が恐れるべきは、 3年前から米国内で会計事務所を次々と買収している アメリカン・エキスプレス社及び 米国内で電子申告の取り扱い実績No1の民間企業H&RBlock社であり、 私たちが関与する中小零細企業及び個人企業・個人資産は、 彼らがねらう顧客層とほぼ同一であると思われます。 しっかりとした対策を講じておく必要がありそうです。

5.結論3について

①KFSと巡回監査を徹底的に実践する

今回の視察旅行で、私は、 規制緩和に伴う外国資本の日本上陸に対する私たちの対応策は、 間違いなく、自計化・書面添付・継続MASの いわゆるKFSと、 その前提となる初期指導・翌月巡回監査の完全実施であると確信しました。 アメリカに行くまでは、 本当に、KFSと巡回監査だけでこの時代を乗り切れるのだろうかと、 一抹の不安があったのですが、それは完全に払拭されました。 私たちが、日頃、一生懸命実践していることに間違いはありません。 どこまで信じ込んで徹底的に行えるかが勝負です。

②中小零細企業の継続発展を支援するのが私たちの仕事

これまで述べてきたように、 Big5は、一部の投資家のみに向いて仕事をしていることから、 私たちと深刻な競合関係はおきにくいと思われます。 徹底的な西洋合理主義は、 個人の利得にならないことには手を出しません。 寄付行為や社会貢献でさえも、 市民に対する一種のパフォーマンスとして、 批判を受けない程度に行うという感覚です。 私たちの関与先の多くは中小零細企業であり、 投資家向けに企業情報を開示する必要がありません。 Big5の感覚では、そんな企業に監査をするのはナンセンスだと考えるでしょう。

それでも私たちは、 巡回監査を徹底的に実施し、 グローバルスタンダードと呼ばれているものに、 少しでも近づけようと努力しているのです。 なぜでしょうか。

それは、私たちには、 中小零細企業を育て上げて行こうという気持ちがあるからです。 世界を動かしているのは国際的な巨大企業であり, Big5は、それを支配下におくことで、 自分たちが世界を動かしていると自負しています。

でも、私たち日本の税理士は、 経済を支えているのは、無数にある中小零細企業であり、 それらを支援するのが自らの仕事だと考えているのです。

③初期指導の能力はTKC会計人が世界一

A社・B社は、資金力にものをいわせて日本上陸を目指してくるでしょう。 A社・B社それぞれが、その弱点を克服したとき、 私たちにとって脅威になると申し上げました。 確かに、彼らは、私たちと顧客層が競合するという点において不気味ではあります。 ただ、先ほどは触れませんでしたが、 私たちと彼らとの間に、 その能力において根本的な違いがあると思われます。 それは、初期指導の能力です。 アメリカでは、税務が会計とが切り離されているため、 税務を行う上で会計を考える必要がありません。 そのためか、初期指導をするという感覚が非常に乏しいのです。 初期指導を伴わない関与は、 私たちTKC会計人の感覚から見るとたかがしれているのです。 では、彼らが初期指導をし始めたらどうなるのかという疑問が湧いてきます。 これも、自利利他の精神を理解できない彼らには、 優れた初期指導を行うことは大きな苦痛となると思われます。 日本が確定決算主義をとる以上、 税務の前提として、決算を組むという会計業務を避けて通ることができません。 会計業務がすべての中小零細企業に要求される以上、 初期指導は避けて通れない通過点なのです。 ところが、外国資本は、 その通過点をきっちりとクリアしてゆくことの重要性を 理解しているとは思われません。

④結論

TKC会計人は、中小零細企業及び個人企業に対しては、 アメリカ人が想像もできないレベルの業務を提供しています。 私たちは、自分たちが行っている業務に、 もっともっと自信を持っていいと感じました。 「信なくば立たず」です。

6.結論4について

①アメリカの企業に理念があるのか

今回多くの会計事務所や企業を訪問し、 先方の話を聞きましたが、 TKCでいうところの「自利とは利他をいふ」に該当するような理念は、 全くありませんでした。 「自利利他」ほど深くないにしても 何らかの企業理念があるのではと 聞き耳を立てていましたが、 全く聞くことができませんでした。 世界中に8万人のスタッフを擁する 巨大会計事務所のひとつであるEYの運営管理が、 全・業員に浸透する理念なしに、 如何に意思統一が行われているのか、 私には不思議でなりませんでした。 そこで、EYで、重要なパートナーの一人である藤田氏に尋ねてみました。 「アメリカの企業には、企業理念・哲学は無いのですか」と 藤田氏の第一声は次の通りでした。 「それは、一人一人の心の中にあるのです。」 「アメリカでは、日本のように、 企業理念で社員を統制しようとすることは 受け入れられないでしょう。 個人として能力があるか否かが関心事なのです。 倫理性は、個人の能力・資質に委ねられているのです。」 アメリカでは、すべてを個人の能力に帰着させるようです。 倫理観であっても例外ではないのです。 個人の能力の高い人が、 ステータスのある仕事に就くことができ、 高い給与が取れる。 と同時に、倫理観の高さも要求されるのです。 そのような人々が集まっている会社は、 企業総体としての倫理性が高く、 社会もそのように・価し、 また期待している。 個人の能力がすべてのベースであり、 その能力が適正に・価される世界、 それがアメリカ社会のようです。

個人の能力が適正に・価される世界は、 確かにすばらしいと思います。 ただ、アメリカの場合、 手放しで素晴らしいと賞賛できないのは私だけでしょうか。

②飯塚名誉会長の言葉

飯塚名誉会長は、 第4回全国大会の「職業会計人の論理とその限界」と題した講演で 次のように述べておられます。

「米独会計人を越える施策の実施。 それは、東洋精神の精髄の発見自覚と実践しかない。 しかるに、東洋精神の精髄が何であるかというと、 それは、『相即の論理』である。 米独の論理は、 形式論理・経済的実体中心の論理・弁証法の論理であり、 未だ認識の対象・認識の客体に関する論理にすぎない。 主体と客体とを包摂する論理が欠落している。 『相即の論理』は、 主体と客体と包摂するものであり、 2500年前に、釈迦が初めてこれをあたえた。 中略 米独の会計人は、 『相即の論理』を知らないという点において、 日本会計人に、克服されてゆくとの限界を持つ。 米独の会計人は、やがて、 TKC会計人によってコテンパンに克服されてゆく運命にあるのである。 日本会計人の進路は、 『相即の論理』をつかんで、実践すること、 それしかないのである。」

③"Himself is me"と"I am never others"

確かに現時点においては、 アメリカの会計人はすばらしいのかもしれません。 しかし、彼らには、 飯塚名誉会長がいわれる『相即の論理』は、全くありません。 彼らには、“Himselfisme”という 相即の論理に基づいた思考は理解できないのです。 彼らにとっては、あくまでも、 “Iamneverothers”なのです。 TKC会計人が、 『自利とは利他をいふ』という相即の論理を 自らの実践原理としてとらえ、 KFS及びその前提となる初期指導・翌月巡回監査を 徹底的に実践してゆくことが、 なによりも大切なのだと感じます。

reports/report2.txt · 最終更新: 2009/05/31 10:11 by 寺本和生
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